WILL 1章 第3話

資質と共に集まる仲間  ルミナス・光の迷宮

一夜明けて、先の戦闘の疲れもすっかり抜けた一行は光の迷宮へと続く回廊の前へと進んだ。

観光スペースと迷宮を別ける扉の前には白いローブを纏った女性が立っていた。
「陽術の資質を得るにはこの『光の迷宮』に挑み、無事出口を見つけて脱出する――試練を受ける必要があります。 ですが、モンスターやメカ、陰術を習得している方には挑戦権がありません」
陽術の資質を得たい、とルージュが申し出ると再度確認をとられた。
「挑戦は1度きりです。試練を受けますか」
「ええ。お願いします」

資質を得るために四人は迷宮への入り口へ立った。
が、さらに進もうとジェラスが扉に触れた瞬間、青白い火花が飛び散った。
「くッ――やはり、無理か……」
「うわ、大丈夫?」

ジェラスがかすかに痺れの残る手を軽く振るとアセルスは心配そうに覗き込んだ。
陰術を習得しているものは入れないと言われたにも関わらず、無謀にも迷宮に挑もうとしていたアセルスは、内心ちょっとだけジェラスに感謝した。

先に入ろうとしていたなら他人事ではなかっただろう。
「じゃあ、ここで待ってるね。ふたりとも、気をつけて」

アセルスは、名残惜しそうに白薔薇姫とルージュを見送った。
「あのさ」

ただ待っているのも退屈で、アセルスはジェラスに話しかけていた。
「もしかして二人は、兄弟?」

驚いたように、ジェラスはアセルスを見返す。
「いや、違うな。――なぜ、そう思う?」
「そっか、違うんだ……。うん――なんとなく、だけど。似てるんだよね。――雰囲気とか」
「それは――私もルージュも、術師だからでは?」
「でもジェラスって、なんだか、ルージュのお兄さんっていうか、保護者ってかんじだよ? 見てると」

見上げるアセルスに、ジェラスはほんの少しだけ困ったような複雑な微笑を返した。

そうしているうちに、迷宮の扉がぼんやりと光りだした。
「戻ってきたようだ」

扉の前の光は次第に人の型になり、ルージュと白薔薇が現れた。
「光の迷宮って、どんなところだったの?」

好奇心を押さえきれない様子でアセルスはルージュと白薔薇姫に尋ねる。

小さい頃から迷路が大好きだったと言うアセルスは、光の迷宮に入れなかったのが心底残念そうだった。

光の迷宮から戻ってきたルージュは、何気なく足元の床に目を遣り……出会ったときから抱いていた違和感の正体に気づく。

(そうか……この人。『影』が無いんだ)

ルミナスの、磨きぬかれた大理石で作られたシップ発着場付近は、迷宮からの光や、ロビーの照明とあいまってかなり明るい。光源が一箇所ではないため、夕暮れのような長い影はできない――だが、自分の足元にも、アセルスの足元にも当然のように出来ている影が、黒髪の青年の足元には全く無かった。

(でも、訊くのは失礼だよね……入り口の反応から、陰術に関係してるみたいだし。試練は一度きりだと、受付でも言われたからなぁ)

陰術の試練――オーンブルでの内容は、文献を読んだことがあるので知識としては知っている。

術士の彼に、影が無いことをたずねるということは「試練に挑んで失敗したのか」と問うのと同じだ。そんな失礼な真似はとてもできない。

 

 

その後、ドゥヴァンでカードを手に入れた一行は、盾のカードを求めてIRPOへ。受付で用件を告げると、応接室に通された。
「いやー、待たせたね。あんたら、盾のカードが欲しいんだって?」

しばらく待った後に現れたのは、とても警官には見えない飄々とした男だった。彼はIRPOのヒューズ捜査官だ、と名乗った。
「ここに来れば、カードがあると聞いて――。お願いです、譲っていただけませんか?」
「ああ、かまわないぜ。俺は別に術の資質に興味はないからな」
「ありがとうございます!」

あっさりと承諾するヒューズに、ルージュは思わず笑顔になり、差し出されたカードに手を伸ばす。

しかし、ルージュの手が触れる寸前で、男はカードを引っ込めた。
「おっと」
「何するんだ。さっきは譲ってくれるって言ったじゃないか!」

アセルスが抗議すると、ヒューズは掌で遮った。
「タダ、っつー訳にゃあいかねえな」
「ちょっと! 警察のクセに一般市民から巻き上げようって言うの?!」
「待ちなよ、アセルス」

放っておくとどこまでもケンカ腰になりそうなアセルスを見かねて、再びルージュが会話に入る。
「つまり、何らかの代償が必要というわけですね?」
「おう、そうだぜ。なにも、あんたらから金をふんだくろうとは思ってねえよ。ここんとこちょーっと、IRPOも忙しくってねー」
「なるほど――働け、というわけだな」

わかった、とジェラスが肯いた。しかし、と彼は続ける。
「ひとりではリージョンシップに乗れないような世間知らずに、 機械文明に疎い妖魔の社会から来たお嬢さん方。――ここで使いものになるとも思えないが?」
「話が早いのは助かるよ、兄さん。でもね、なにもここで働けって言うわけじゃない」

ホッとする一同の顔を見わたした後、ヒューズはニヤリと笑った。
「ムスペルニブルの山頂に咲いてる花を取ってきてくれないか? 俺も同行するからさ」

冬の雪山。ただでさえ寒い上に吹き付けるブリザード。体感温度は実際の気温よりもさらに三割ほど下がる。
「っくしゅん!! さ、寒……。ちょっと、本当にこんなところに花なんて咲いてるの?」

比較的着込んでいるルージュは、見かねて自分のショールをアセルスの肩にかけた。
「大丈夫? 女の子が体冷やしちゃダメだよ」

何か言いたげなアセルスに、資質を集める旅につきあわせているのは自分のほうだから、とルージュは微笑んだ。 そんなふたりの様子を見て白薔薇姫がフォローする。
「アセルス様。殿方のご厚意をお断りするものではありませんわ」

そう言う白薔薇姫もいつのまにかジェラスのストールを羽織っている。

彼女の場合、もともとの肌が色白なので顔色の白さは気温のせいばかりでは無いだろうが。

吹雪を避けて入った洞窟のひとつに、氷漬けにされた朱雀の姿があった。
「これは――強力な呪詛で固められていますね」
「ここいらにゃタチの悪い霜の巨人や雪の精なんかがいるからな。おおかたそいつらの仕業だろうさ」

氷を見上げて神妙な面持ちで呟くルージュに、IRPO捜査官のヒューズが答えた。
「ふうん。かわいそう。……ねぇルージュ、何とか出してあげられないかな」

アセルスは、氷の檻に閉じ込められた哀れな鳥の姿を見つめていたが、ふとルージュに顔を向けた。 提案に対して、彼は難しい顔をして考え込んだ。

幸いにも現在のパーティーには術士が二人いる。氷を解かせないことは無いが、この氷縛の封印をした者がそれで黙っていてくれるとは思えない。

自然と、ルージュの返答は歯切れの悪いものになる。
「出来なくは、無いけど……」

その言葉に、ジェラスはわずかに眉をひそめた。

何故、ルージュはこうも自分からトラブルに首を挟みたがるのか。

とはいえ、困っているものと見れば放ってはおけないルージュの性分をジェラスが嫌いにはなれないのも、また事実だった。

ジェラスはルージュが切り出す前に答えを返す。
「わかった。協力しよう。ふたりがかりなら何とか解呪できるだろう。ただし、この呪詛を仕掛けた輩に気付かれたら厄介なことになるぞ」

ふぅ、と軽いため息をひとつついた青年は先回りして釘を刺すのを忘れなかった。

※2018.07.12加筆修正

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