WILL 12話 妖魔の君

ルージュに、伝えてほしい――
「『迷うな、運命の双子』って……そう言ってた」

一晩空けて「話がある」と一堂は宿のロビーに集められた。
そして、ジェラスが居なくなったことを、パーティーリーダーのアセルスから告げられる。

「ねえルージュ。私は、ジェラスがキミのお兄さんなのかなと思ってたよ。だけど――」
「そうか……アセルスは、ブルーに会ったことがあるんだね」

昨日のドウヴァンの神社で。落葉の中、一瞬だけ金髪に見えたルージュの顔を見たとき、キグナスで一度だけ会った青い法衣の青年を思い出したのだと、アセルスは言う。

アセルスの言葉で、ルージュは初めて会ったときの彼女の怪訝な表情の意味を悟る。
あのときはてっきり、女性に間違われたのかと思っていた。マジックキングダム外部の人間が、ルージュに対してそうであったように。
けれど、旅を通じて付き合いの長くなった今ならわかる。肌の――厳密に言えば『血』なのだが――匂いで男女を嗅ぎ分けられる、吸血妖魔の感性をもったアセルスが、ルージュを女性と間違えるはずが無いのだ。

「迷うな……か」

ふっと、ため息をつくように――かみ締めるように告げたルージュの表情に、去り際の面影が重なる。
ルージュに、と預かった言葉だったけれど。
居なくなった彼は、自分に向けても言っていたのではないかとアセルスは思う。
人と妖の間でゆれる、どっちつかずの存在に、進むべき道を決めろ――と。

カップの中身がすっかり冷え切るまでの時間をかけて、ゆっくりとルージュは語った。
マジックキングダムの双子の使命と――ブルーのこと。
穏やかなのに、見ている方が胸が痛くなる。
「ブルー」と、双子の片割れの名を呼ぶときのルージュの表情は、そんな微笑だった。
それだけで、ルージュが双子の片割れに対して、どんな思いを抱いているのか――アセルスにも判ってしまう。

告げられた「片割れ殺し」の使命に、ルージュが欠片も納得していないだろうことも。

マジックキングダムの掟についての詳細は、これまでルージュが語ろうとしなかったため、アセルスをはじめパーティーメンバーは誰も知らなかった。
語ろうとしなかったのは、彼がどうにか、その指令を回避する方法はないかと思い悩んでいたからだ。
普段の柔らかな笑顔の影に、どれだけの想いをルージュは押し殺していたのだろう。
自分のことにいっぱいいっぱいで、気づくことが出来なかった――と、アセルスはテーブルの下できつく自らの手を握りしめる。

「ルージュ……私、ファシナトゥールに……針の城に、行く」
どれくらいの間そうしていたかは、はっきりと覚えてはいないけれど。
顔をあげ、真正面からまっすぐルージュを捉え、アセルスは自らの旅の終わりを告げた。

針の城での死闘を終えて――空術の試練に挑むと告げたルージュに、アセルスは紅に輝く自らの剣を手渡す。

「ちょっとアセルス、何考えてるんだ! これは、君の命を使って作られた、一本しかない大切な剣だろ!」
だからだよ、とアセルスはさらに強く、剣を渡したルージュの手を包み込む。
「キミの試練の場に、私は行けない――今は。だから私の命を預ける」

戦うための剣ならこれがある、とアセルスは自分の腰に残した竜鱗の剣を指す。
「ルージュ、わかってるよね?『貸す』だけだからね。ちゃんと、キミの手から返してよ」
「……敵わないな、本当に」

妖魔の君を打ち倒したアセルスに、刺客が送られることはまずない。彼女は晴れて自由の身となったのだ。
けれど、闇の迷宮の後遺症が色濃く残る白薔薇は、未だ目を覚まさず――アセルスは針の城を留守にすることができなくなった。

術士といっても、ルージュは近接戦闘が全く出来ないわけではない。
幾度となく、ともに死線を潜り抜けてきた仲だ。いざ術が使えないという状況になったとき、体術なり剣なりを使ってでも切り抜けるだろう、と。行動がアセルスにお見通しなのは、彼女がパーティーリーダーなのだから当然なのだが――それよりも。
わざわざ念を押して、「命を預ける」という言い方をしたり「ルージュの手から返せ」と断りを入れたりするあたりが、アセルスもルージュの性格をよく把握している。

「そなた――連れはどうした」
「彼女は……アセルスは。自らの運命を勝ち取ったよ。だから、僕も」
ドウヴァンの神社で、ひとり佇む巫女に、ルージュは自分の決意を告げる。
空術の試練に挑む――と。

――私はアセルス。門を開けよ!
凛々しく、気高く。でも決して少年ではない――美しい少女。

この世にただ一人の「半妖」。
妖魔からも、人からも。受け入れられることなく馬鹿にされ、蔑まれても。それでも自分の選んだ運命を受け入れるのだと、アセルスは言い切ってみせた。

そんな彼女に恥じないように。胸を張って、もう一度再会できるように。
どんな結果になったとしても、自分の願いや信じる思いを曲げない――ルージュは決めた。

「どいつもこいつも、大馬鹿者じゃ」

さっさと迷宮を抜けるが良い――そう告げて、ルージュを『麒麟の空間』に送り出すときの巫女の表情が、なんだか泣きそうに見えて。
(あれ、何だか――初めて年相応に見えたような……)
おそらくは上級妖魔だろうと思われる幼女に、年相応の表情というのもおかしな話だが。

下級妖魔でありながら上級妖魔に匹敵する力をもち、「時の君」と呼ばれる時術の資質所持者。
空術の資質を持つ、麒麟の特殊空間への案内役を担う巫女。
どちらも、妖魔に深くかかわりを持ち、人ならざる長い時を生きている。
上位の資質には、長い長い時の流れが関わっているのは間違いなさそうだとルージュは思う。

一瞬視界が暗転し――次の瞬間、晴れ渡る青い空がルージュの視界に入った。

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ロマサガ2・3、サガフロ、天空のクリスタリア、天下統一クロニクル、その他DMMゲームの二次創作(ファンアート)を描いています。
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