WILL (サガフロ二次創作)序章 出会い

石造りの床に、カツン……と足音が響いた。

ステンドグラス越しに差し込む光が邪魔をして、ホールの上にいる人物の顔を下から確認することは出来ない。

しかし、修士を呼ぶ声の主が校長だと知らない者は居なかった。

「修士ルージュ、前へ!」

真紅の法衣を纏った青年が進み出ると、肩から腰へと流れる銀髪が揺れた。

緊張のあまりひとことも返事ができずにいた青年――ルージュに対し、校長は淡々と言葉を続ける。

「おめでとう。今回の修士課程修了者は、審査の結果貴方に決まりました。慣例に従い、他のリージョンへの外遊を許可します」

事務的に繰り返されてきた、どの学生でも同じ形式の終了式。

ただ、彼の場合は更にもうひとつ、言い渡される事項があった。

「貴方も知っての通り、双子は例外なく魔力が高い。しかし、双子であるがゆえに術士として完成されることは無い。 ――私の言っていることは、わかりますね」

わざわざ確認を取るまでもなく、常識として知られたことをあえて持ち出されて、ルージュはいやな予感に顔を曇らせた。

(まさか、まさか――!)

「ブルーを、殺せ」

「いやです」

何のためらいもなく当然のように告げられた命令に、ルージュは即答した。

「何を言うか! 聞こえなかったのか?! マジックキングダムにおいては術こそがすべて。今までずっと、そう教えられてきただろう! 不完全な術士など必要ない!! ましてふたりも!!」

校長の隣にいた人物がルージュを怒鳴りつけたが、ルージュの答えは変わらない。

「そちらこそ聞こえなかったのですか? 僕は、『嫌だ』と言ったんです」

ホールの上にいたキングダム上層部だけでなく、終了式に集められた学生の席もざわめく。

今まで術を修めることに誰よりも熱心だったルージュが、栄えある席でキングダムに対して反抗的になるなど誰が考えただろうか。

「静かに! 修士ルージュ。もういちど言います。完全な術士となる為に、双子の片割れであるブルーを殺しなさい」

「……」

校長はあくまでも冷徹に言い渡した。押し黙るルージュに対して四方から冷ややかな視線が注がれた。

「卒業の証として、今着ている法衣と――それを」

教官が「卒業の証」を持ってルージュの前に進み出た。しかし彼は差し出された教官の手ごと振り払った。

「……か」

押し殺したルージュの声と、今までの彼からは考えられない行動の数々に、手を振り払われた教官が目を見張った。

ルージュの脳裏に遠い日の記憶がよぎる。

わけもわからず学園につれてこられた幼いあの日。それまでずっと一緒に過ごしていた双子の片割れとはいきなり引き離された。

父も母もなく、誰一人頼れる者もいない。そのうえ、いきなり見知らぬ場所に連れて来られたわずか5歳の子供が――逆らうことなど、どうして出来ただろう。

どんなにルージュが願っても、学園側は決して半身の居場所を教えることはなく、一度もブルーに会えないままルージュは終了式の日を迎えた。ただ、「終了式を終えれば会える」とだけ告げられて――ルージュに出来るのは、一刻も早く片割れに会うために、日々術を磨くことだけだった。

しかしルージュはもう子供ではない。

「いままで、ずっと僕をだましていたのか!!」

烈火のごとく怒るルージュはキングダムの上層部に猛然と食って掛かる。

「卒業したら会えると言っただろう。誰もウソなどついてはいないがな」

校長の空とぼけた物言いにルージュは激昂した。

(僕達を、殺し合わせるために育てたっていうのか……ッッ!)

「こんな国、無くなってしまえばいい!!」

高ぶる感情が魔力を暴発させ、ルージュを中心に目を灼く光の嵐が起きた。
光の洪水が去った後、ルージュの視界に最初に入ってきたのは舞い散る木の葉だった。

鮮やかな黄や紅に彩られた樹木が並んで立ち、枝の間からは柔らかな陽射しが差し込んでいる。一歩進めば積った葉はかさりと音を立てた。

「ここに……最初の資質があるのかな……」

そう呟いてから、フ……とルージュは自嘲的な笑みを浮かべた。

(結局、僕はキングダムの指示に従っているんじゃないか――)

足元から前方へと視線を移したルージュは、少し離れた庭園の陽だまりの中に人影を見つけた。

横顔にかかる漆黒の髪。肩からは薄いストールを羽織っている。動きやすそうではあるが飾り気のない、髪と同色の衣装を纏った青年。年齢はルージュより3つか4つ上だろう。

服装という点では妖魔やマジックキングダムの者同様、人間のみで構成されたリージョンではどうしても浮いてしまう――はずなのに。彼は、何故かこの穏やかな空間に馴染んでいた。

普通、黒一色という格好は自然と相手を威圧し、身構えさせてしまう。

しかしルージュは、目の前の青年から、不思議な安堵感を与えられていることに気付いた。

相手の顔に見覚えはない。初対面のはず――なのだが。

(なんだろう――この感じは……)

視線に気付いたのか、青年はルージュの方へ顔を向けた。

初対面の人物を不躾に眺めていた気まずさで、ルージュは慌てた。けれど相手のあるかなしかのかすかな笑みに気付き、どこかで会ったことでもあるのかと懸命に記憶を辿ってみたものの、どうしても思い出せなかった。

「あ、あのっ」

「その格好、マジックキングダムの出身者だな。 ――ここには、心術の素質がある。あの道場だ」

「あ、ありがとうございます」

頭を下げてから、教えられた建物に向かってルージュは駆けて行った。

紅や黄の落ち葉の積った庭園に、闇色の青年だけが一人残された。

「魔導王国の命運を握る――双子、か」

遠ざかる背を見て呟いた青年の声は、ルージュには聞こえていない。

そして、マジックキングダムで終了式のあと交わされた会話も、ルージュは知らない。

「触媒無しでゲートを使ったか――」

「この魔力――なんとしてでも完成してもらわねばな」

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2002.4 初出 2004.1 加筆修正

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ロマサガ2・3、サガフロ、天空のクリスタリア、天下統一クロニクル、その他DMMゲームの二次創作(ファンアート)を描いています。
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